【中野人】ミニ小説「北大ホームズ」1話

Pocket
LINEで送る

【中野人】メルマガで小説配信開始!

 

新コーナー「宮園オート坪井」のミニ小説「北大ホームズ」、連載が始まりました!坪井氏の母校「北海道大学」を舞台にしたミステリー、もちろんフィクションです。ぜひご愛読下さい。

 

☆ミニ小説「北大ホームズ」

 

【1話】

 

「ミステリー小説の冒頭には死体を転がせって言うだろ?」

同じ大学に通う宮田が、唐突にそんなことを言い出した。

おそらく小説の作法について言っているのだろう。冒頭で何か事件が起きた方が、その先の展開に興味をそそられる。ミステリー小説マニアの宮田は、何でもミステリー小説に喩える癖があった。

「でも僕の前には書きかけのレポートの束が転がっている。これが意味することがわかるか?」

「今日中に全部仕上げないと留年する」

「その通りだワトソン君」

僕の名前は内川であって、ワトソンでもモリアーティでもない。強いて言えば宮田と僕は同じ部屋で暮らすルームメイトで、その点だけがホームズとワトソンに共通していた。

「いい加減レポートだけ出せば単位もらえる授業取るのやめろよ。どうせレポートだってまともに書かないんだから」

宮田は極度の出不精で、極限まで部屋から出ない生活を送っている。そのため僕は宮田の代返要員と化し、レポート制作やら何やらを何度も手伝わされてきた。

「じゃあ俺は『時館』で飯食ってくるから」

「薄情者! それでもルームメイトか!」

宮田のシュプレヒコールを背に、僕はそそくさと玄関を出た。『時館』とは大学近くにあるレストランで、家からも近いのでよく利用していた。我ら北大生の憩いの場である。

「やっぱり、冬は冷えるな……」

玄関のドアを開けると、視界に真っ白な世界が飛び込んできた。辺り一面の雪景色だ。

東京から札幌の大学に出てきて、正直冬の寒さは堪えた。雪の量は尋常じゃないし、耳や頬を刺す痛みはもはや罰ゲームだ。

でも慣れればこの寒さも乙なものだった。寒さで鼻水が凍る体験など、東京ではできないのだから。

「……え?」

そのまま外に出ようとした僕は、しかしその場で踏み止まった。

なぜなら僕の足元、アパートの玄関先に、死体が転がっていたからだ。

 

※次号へ続く

 

http://nakamani.jp/nakanojin/