【中野人】ミニ小説「北大ホームズ」3話

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新コーナー「宮園オート坪井」のミニ小説「北大ホームズ」第3話、「翌日とんでもないニュースが飛び込んできた」とは…。ぜひご愛読下さい。

 

☆ミニ小説「北大ホームズ」


【3話】

 

「偽物……?」

宮田からその知らせを聞いた僕は、しばらく唖然としていた。

警察の人が言うには、アパートの前の死体はよく出来た偽物だったという。

「誰が作ったか知らないけど、人工的に作った人体標本みたいなもんだってさ。ちゃんと骨格から皮膚まで本物の人間を再現してさ。いったい誰がそんなもん作ったんだろうな」

宮田はひどく冷静に語っていたが、僕は状況の変化にまったくついて行けなかった。

あの死体はどう見ても本物だった。冬だからコートを羽織っていたし、半分は雪に埋もれていたから全てを見たわけではないが、皮膚の質感も、雪に染みて固まった血も、全てが本物に見えたのだ。

大体、偽物なら警察の人がすぐに気付くのではないか。向こうはある意味で死体を扱うプロなんだから。

「それが案外わからなかったみたいよ。殺人事件は現場維持が原則だし、一度死体だって思ったものをわざわざ疑ったりしないだろ? それに雪の上で死体そのものが凍っていたから死後硬直と区別がつかなかったらしい。まあそれだけあの死体がよく出来てたってことだけど」

そう言われたところで、僕はまったく納得できなかった。

自宅の目の前に死体があったことは本当にショックだったし、本気で犯人が捕まればいいと思った。わざわざコンビニで線香まで買ってきて寒空の下で手を合わせたのは一体何だったのか。

「それで警察の人は何だって?」

「手の込んだ悪戯だってさ。騒ぎにはなったけど、べつに被害者が出たわけじゃないし、今後も続くようなら捜査するけど、今回はそれで全部済ませることにしたらしい」

警察もそんなに暇じゃないのよ――と宮田は嘯くが、僕は未だに納得できなかった。

仮に悪戯だとして、一体誰が何のためにそんなことをしたのか。

事件直後には新聞記者もテレビ局の人も来たし、大学の職員さんまでやって来た。かなりの騒動になったことに間違いはなく、あれをただの悪戯なんかで済ますことはできない。

それに僕は、宮田がやけに飄々としていることが気に食わなかった。

コイツだって僕と同じ経験をしているはずだ。結果的に偽物ではあったが死体を目撃したわけだし、警察の聴取や記者の取材に付き合わされてヘトヘトになったはずだ。

それなのに何故、コイツはこんなに平気そうな顔をしている。推理小説マニアだから事件に慣れているなんて次元じゃないぞ。

「……おい宮田」

コタツの中で古い携帯ゲームに勤しむルームメイトを見て、僕はとあることに気が付いた。

「お前、レポートはどうしたんだよ?」

 

※次号へ続く

 

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